「国民の弟」ともてはやされ、韓国中のお姉さまたちの愛をひとりじめしたイ・スンギさまも、先日めでたく結婚されました。「バガボンド」ではアクション演技もこなし、俳優として大きく成長した彼を見てますと、もともと歌手だったということを忘れがちな今日この頃。そんなイ・スンギの「マウス」を見てみたのでございます。
この記事の内容
「マウス」はサイコパスストーリー
「マウス」は、韓国で2021年に放送されたスリラードラマ。サイコパスのDNAを持って産まれ、残酷な殺人鬼となった青年バルムと、幼少の頃、バルムの父親に両親を無残に殺され、復讐のためだけに刑事になったムチの、恐ろしさと悲しさが交錯する物語です。好青年なイメージのイ・スンギが、殺人鬼を演じたことでも話題になりました。
ここが違うよ、スンギのサイコパス
サイコパス関連のドラマは、残酷なシーンに終始する印象が強いですが、このドラマは、サイコパスによる惨たらしいまでの犯罪と、そのサイコパスに、他人の脳が移植されたことにより、人間性に少しずつ変化が生じていく過程を描いています。
主な登場人物
バルムと、その家族や同僚・恋人など、バルムをとりまく人々の憎しみや、友情・愛情が、複雑な思いとなって渦巻いているのでございます。相関図の全員とはいきませぬが、主要キャストをご紹介。
チョン・バルム / チョン・ジェフン (イ・スンギ)
町の誰からも愛される警官バルムは、お年寄りにも親切で、ボンイの祖母からは、いずれは孫の婿にとまで思われるほどの好青年。涙もろくて気も弱く、同僚たちからは、警官には向かないと思われていましたが、その善良な性格は、悪魔のように残忍な、彼の本性の隠れみのに過ぎません。実は、サイコパスの中で最も凶悪とされる、プレデターの遺伝子を受け継いでいるのでした。
コ・ムチ(イ・ヒジュン)
ムチは、幼少の頃に家族で行ったキャンプ場で、両親が何者かに殺害され、自分を助けようとした兄も、身体に障害を負ってしまいます。死刑の判決が下されたにも関わらず、なかなか執行されないまま、犯人が生き続けていることに納得できないムチは、自らの手で犯人に復讐しようと刑事になり、その目的を達成することだけを考えて生きています。
オ・ボンイ(パク・ジュヒョン)
子供の頃、雨の日に祖母に頼まれたおつかいの途中で、男性から襲われたことがトラウマとなり、10年経っても、雨の日は精神的に不安定になってしまいます。祖母が、バルムを自分の婿に考えていることが不満でしたが、祖母が亡くなった後、いろいろと良くしてくれるバルムに、だんだんと気持ちが傾いていくのです。
チェ・ホンジュ/ パク・ヒョンス (キョン・スジン)
記者として連続殺人事件に深く関心を持ち、自分の番組でも取り上げ、配信を続けます。殺人鬼と思われていたヨハンの恋人で、彼の子供を産んだホンジュは、世間から非難を浴びることになります。また、最後には彼女自身も過去の殺人事件に関わっていたことをカミングアウトし、幼少の頃の悲しい過去が明らかになります。
ハン・ソジュン(アン・ジェウク)
表の顔は優秀な脳神経外科医ですが、その裏の顔は恐ろしいサイコパス。ヨハンの父親だと思われていましたが、実はバルムの父親で、ムチの両親を殺害した犯人でもあります。大いに世間を騒がせた殺人犯でありながら、罪の意識はまったく無く、自分のDNAを受け継ぐ子孫を残したいという、恐ろしい考えを持っています。
ソン・ヨハン(クォン・ファウン)
チェ・ホンジュの恋人で医師。ムチの両親を殺害したハン・ソジュンの息子として育ちますが、血はつながっていません。しかし、彼もまた恐ろしいサイコパスであると決めつけられ、連続殺人犯だと疑われる中、バルムと一緒にいるところを目撃したムチに、銃で打たれ亡くなります。しかし死後、彼は無実で、殺人鬼の悪行を止めるために行動していたということが判明します。
キム・カッナン(キム・ヨンオク)
おつかいに行ったがために、恐ろしい目に遭ってしまい、大人になってもトラウマに苦しむ孫のボンイが哀れで、おつかいを頼んだ自分を責め続けています。いつもボンイの将来を心配している彼女は、日頃から自分のことを気にかけてくれるバルムに、ボンイと結婚してくれないかと頼み込みます。
ダニエル・リー(チョ・ジェユン)
遺伝学博士で、サイコパスの遺伝子についての研究者です。自分の妹がサイコパスに殺害されているため、恐ろしいサイコパスが存在しない世の中を目指し、日々研究を続けていましたが、妹を殺害したのが、親友だと思っていたハン・ソジュンだったと知り、愕然とします。
さて、プレデターとはなんぞや?
イ・スンギが演じたプレデターとは、サイコパスの中でも、上位1パーセントの最も凶悪とされる存在だそうで、いわば、最強サイコパスですね。ちなみに、世の中にはどのくらいのサイコパスがいるのかと、ネットでしらべてみたところ、ある犯罪心理学者によれば(2018年の記事でしたが)、日本だけでも100万人以上はいることになるとかなんとかって、ヤダ、怖すぎますがな。
「まさか」という、ドラマの展開
途中までは、連続殺人犯と思われたヨハンと、ヨハンを疑うムチやバルムとのやり取りが見もの。ヨハンが殺人鬼であるものと、誰もが確信して見てしまうでしょう。「バルムよ、頑張れ!」と、思わず応援してしまったのも、私だけではあるまい。
国民の息子と呼ばれるバルムであるはずが
ボンイを守り、これ以上被害者を出してはいけないと、身体を張ってヨハンに立ち向かい、重体となったバルムは、脳を損傷し、記憶を失います。彼の行動は英雄のごとく国民から賞賛され、「国民の息子」と、ヒーローのように騒がれますが、真実はそうではなかったのでした。
そのどんでん返しが…
ヨハンの脳が移植されて以降は、ドラマはバルム目線の展開となり、そこからが更に面白いですね。それまでのバルムの行動にフォーカスされ、実はプレデターはバルムで、彼こそが連続殺人犯だったというのは意表をついています。時々襲う残酷なフラッシュバックは、ヨハンの記憶に翻弄されているのではなく、バルム自身の記憶なのです。「あの時のアレはアンタだったのかい」という、私のこの衝撃。さすが韓ドラ、どんでん返しに乾杯。
苦しみは増えていく
「国民の息子」ともてはやされたバルムが、なんと恐ろしいサイコパスだったというのは、衝撃的。重体となった際に記憶を失い、自分がサイコパスだということも、人を殺したことも忘れてしまっていたバルムにとって、彼自身も信じがたい事実。ここからは、バルムの人間性が、徐々に変化していく過程が見どころでした。少しずつ普通の人間へと目覚めていくと同時に、これまで犯してきた罪のひとつひとつが重くのしかかり、取り返しのつかない現実に嘆き苦しむことになるのです。
憎しみと情が絡みあい
ムチは、可愛がってきたバルムがプレデターであり、自分の兄を殺した犯人だったと知ると、気も狂わんばかりの衝撃と憎しみに震えます。また、その一方で、弟のように思ってきたバルムへの情も捨て切れず、それが更にムチを苦しめるのでした。作家さん、これ以上の悲惨な展開はよし子さん。ほんとうの兄弟のように助け合うバルムとムチが、とても微笑ましかったのに(涙)。お願いでございますから、ムチとバルムに救いの手を…と、ドラマを見ながら、祈らずにはいられないワタクシだったのですよ。
「マウス」は悲しいドラマです
最後に教会で、バルムが少年時代の自分に、「お前はもう怪物ではない」と、涙を流しながら告げるシーンは、やっと苦しみから解放されるバルムが悲しくもあり、美しくも思えました。「サイコパスだったけど、良い人になって死んでいくのだよ」という流れは、イ・スンギをただの怖いお兄ちゃんでは終わらせないということかなと。温和で優しい青年から、残虐なサイコパス、更に、自分の罪を嘆き苦しむ姿まで、イ・スンギの熱演が光る感動的な作品でした。