韓ドラ日記にも記載した通り、けっこう古い作品ではありますが、つい先日「ミセン‐未生‐」を見ました。放送当時の韓国では「ミセンシンドローム」という言葉が生まれ、社会現象にまでなったというドラマです。見終わった今も、なんだろう、私の心に納豆のように糸引くこの余韻は。私が20年近く見てきた韓ドラの中で、このドラマはトップ10に入ると思っております(私のランキングに入ったからって、それがなんだって感じでしょうけどね)。
ミセンは商社の日常を描いたドラマ
主役のチャン・グレを演じるのはイム・シワン。子供の頃から棋士を目指すも夢は叶わず、母親のツテで、大手商社にインターンとしてコネ入社するという役。働いた経験の無いグレの、社内で悪戦苦闘する様子が、とてもうまく表現できていると思います。ナムギルさまの「非常宣言」では不気味なテロリストだったイム・シワン。「ミセン」は彼の初主演作だそうで、演技にも初々しさがあり、現在のイム・シワンの成長を感じたドラマでした
多くの社会人たちの共感を呼び
このドラマが社会現象にまでなった理由が、ドラマの中で繰り広げられる出来事や、登場人物の喜怒哀楽に、実際に会社で働く多くの人たちが、強く共感したことだそうで。私も長く会社勤めをしておりますが、こんなオババでも、「わかる!」と叫びたくなるシーンが多々ありましたから、職場における悩みやストレスというのは、日韓共通ということでございますね。
競い合うインターンたちの人間模様
韓ドラですので、見ているこっちが歯ぎしりするくらい憎たらしいやつが、必ず出演しているはずなのですが、このドラマは果たして…。はい、いますよ、いますよ~、インターンの中に意地悪なやつが。本当にやな人たちでしたね。人を見下してるし、自分がいちばん賢いと思っているタイプですな。このドラマの最初の見どころは、このインターンたちの行動や発言に垣間見る、陰湿な人間模様と言えましょう。
慣れない環境に悪戦苦闘
新人時代は、上司や先輩の役には立ちたいが、何をして良いのかわからない。自分から積極的に何か仕事を探そうとしても、けっきょく迷惑をかけたり、仕事の邪魔になったりと、毎日がジレンマとの戦いでございますな。このドラマは10年近く前の作品ですが、上司が部下を能無し扱いで怒鳴るシーンが何度も出てきました。他にも、女性社員に対して「パンプスは嫌いだから履くな」と言っていたり。現在の日本なら、完璧パワハラやセクハラ問題に発展しますね。
情報交換や悩みを吐き出す給湯室
これも、今の時代では少ないと思うのですが、先輩たちのお茶を入れるのも新人たちの仕事というわけで、かなりの頻度で出てくるのが、給湯室のシーン。別々の課に配属され、お互いの課で何が起きているのか、どんなことをしているのか、気になってしょうがない新人社員たち。給湯室で顔を合わせると、何やらヒソヒソ話が始まるのでした。時には、悩みを打ち明けたり愚痴ったり、いつの時代も、給湯室ってそういうところなのよ、そうなのよ。※上司からのお説教部屋だったりもしますが。
そんなに悪いか、コネ入社
グレのコネ入社を面白く思わない人間の陰口は止まりませぬ。すぐ隣の部屋に本人がいるということにも気づかず、グレの胸にグサグサと刺さる言葉を発するのでありました。私がまだ学生の頃、進路担当の先生が「コネも実力の内。恥ずかしくなどないから、あるならどんどん使いなさい」と言っておりましたっけ。「入社してから、どんな社員になるかが重要」ってことですもんね…とは言え、コネだということが社内に知れ渡っていると、やはりしばらくは、肩身が狭いのでしょうなあ。
登場人物
大昔の話ですが、この私がOLデビューした職場でも、印象深い上司・先輩・仲間が存在しました。ミセンの魅力ある登場人物を見ながら、みんなどうしているのかなあと、ひたひたと思い出に浸りましたよ。
チャン・グレ(イム・シワン)
コネでインターンとして入社し、コピーすら満足にできないグレは、同期たちから馬鹿にされる毎日でしたが、彼なりの発想と努力で、まわりを驚かせるような活躍ぶりを見せます。ドラマの最後の方では、契約社員の待遇までこぎつけた彼を、なんとか正社員にできないものかと、同期仲間たちが頑張って行動するシーンが本当に感動的です。清々しさをありがとうと叫びたいくらい。
オ・サンシク(イ・ソンミン)
グレの上司であり、営業三課の課長(途中から次長に昇進します)です。時には怒鳴ったり、厳しいことも言いますが、部下のことを家族のように大切にする上司。私は、この俳優さんのドラマを、これまでたくさん見てきましたが、このドラマほど、彼に魅力を感じたことはありません。ベテランで実力のある俳優さんだということは認識しておりましたが、このドラマの役が、「あなたが上司にしたいタレントランキング」で投票したくなるほど、人情味と愛にあふれているのですよ。
キム・ドンシク(キム・デミョン)
営業三課の代理で、グレの先輩となります。いちど転勤を断って以降、なかなか昇進のチャンスが巡ってきません。同期たちが順調に昇進していくのを見ながら、複雑な思いで働いています。ずっと彼女がいなくて、お見合いをしても振られ、さえない人生と言われそうですが、営業三課には無くてはならない男。オ課長を誰よりも信頼し、何があってもついて行くという覚悟。このドラマを見てみようと思ったきっかけのひとつが、キム・デミョンが出演していること。いや、ほんと可愛いというか、母性をくすぐられるのでございますよ。私が「賢い医師生活」を引きずっているのかも。
アン・ヨンイ(カン・ソラ)
グレの同期社員。インターンの時はいわゆるデキる女というやつでしたが、正社員として採用されて以降は希望の課に配属されず、なかなか自分の実力を発揮できずに悩みます。仕事を教えてもらう先輩社員は怒ってばかりだし、お茶くみや電話の仕事ばかりで辟易としていましたが、少しずつ努力が認められ、意地悪な先輩とも信頼関係を築いていくようになります。父親の借金返済もしており、自分の稼ぎをあてにする父親が許せないのでした。
チャン・ベッキ(カン・ハヌル)
こちらもグレの同期社員。インターンの時から優秀さを発揮し、まとめ役のようになっていました。プライドも高く、正社員として配属された鉄鋼課で、これといった重要な仕事を任されず、先輩が自分を嫌いで仕事を渡さないのだと思い込んでいます。そんな中、さえない契約社員だと思っていたグレが想像以上の活躍を見せることに嫉妬してしまいます。このカン・ハヌル、理知的でイケてますね。スーツ姿も決まってますな。
ハン・ソンニュル(ピョン・ヨハン)
グレの同期社員で、インターンの時に全員に課せられたプレゼンの試験では、グレのパートナーでした。すぐ女性にボディタッチしたり、いわゆるチャラ男のように言われていますが、それには深いわけがあるのでした。同じ課の先輩が、仕事にいい加減でだらしなく、間違いを新人のせいにするため、どうにかしてやろうと行動に出るのですが、うまくいかず、かえって自分の立場を悪くしてしまいます。
チェ・ヨンフ( イ・ギョンヨン)
この方は専務理事でございます。彼は、昔は熱い営業マンだったのですが、昇進とともに情熱もどこへやら。すっかり汚れた世界に身を置いてしまっているのでした。この方が登場したとたん「出た!」と叫んでしまうくらい、存在感が半端無いですわ。文句なしでカッコイイですね。このドラマでもそうでしたが、悪い人のようで真の悪人ではない、良い人のようでどこか裏がある…なんだか「そ~れは何かとた~ず~ね~た~ら」と聞こえてきそうですよ。ベンベン!てやつです(どうでもいいよ)。
チョン・グァンヌン(パク・ヘジュン)
この方もグレと同じ営業三課で、課長を務めております。グレが三課に配属された後に、別の課から異動してくるという設定。彼の異動には、専務から頼まれた、誰も知らないミッションがあるのでございます。パク・ヘジュンは「夫婦の世界」で夫役を演じ、ワタクシ的には「世界一の優柔不断男」というイメージでしたが、営業課長役の彼は、なかなか良かったですよ。
ソン・ジヨン(シン・ウンジョン)
このドラマの舞台となる商社「ワン・インターナショナル」には、まだまだ男女差別の空気が漂よっております。「女は雑用やってろよ」と言わないまでも、社内全体がそんな雰囲気。女性社員からの提案や意見には「生意気だ」という態度を取られることも少なくありません。10年前のドラマと思って見たとしても、「そんなに男が偉いか?」と聞き返したくなります。そんな厳しい状況の中、家庭と仕事を両立し、実力で営業一課次長まで昇進してきた彼女でも、女性であり母親であるがゆえの悩みが尽きないのでありました。
性格も様々な先輩の皆さま
先にもお伝えした通り、この会社は、朝から怒号が飛び交い、暴力的な言葉で上の人が下の人を追いつめることなど、日常茶飯事。そんな中で鍛えられてきた先輩の面々は、それぞれの性格も様々。いつも怒っている人、ちゃらちゃらして不真面目な人、完璧主義を貫き、冷静沈着な人。みんな個性豊かですが、こんな人って会社に必ずいる!と思えてきます。理不尽な扱いや不毛な争いなど、グレたち新人社員に向けられる先輩たちの態度も、このドラマの面白さのひとつ。
その他上司たちにも個性があり
課長や部長連中の特徴も強烈です。特に、いつも部下を叱咤するパワハラ上司は、言葉がエゲツない。今のご時世なら、現場を部下に隠し撮りされ、SNSで動画が拡散されてしまうかもですぞ。そのくらい性格の悪い上司でも、このドラマの重要人物です。毎日、ネチネチと部下をいびりまくり、プレッシャーをかけ、上からの圧力が半端ないと感じます。昔の私の職場では、こんな人普通にいましたね。ドラマを見ながら、大嫌いだったアイツを思い出し、「チクショー、あん時はよ〜」…ってなりましたもん(誰のことだよ)。
ワタクシ的な感動とおもしろポイント
このドラマは、ひと昔前の会社員なら誰でも共感でき、特に主役のグレに関しては、新人時代の自分と重なり、思わず感情移入してしまう視聴者も多かったはずです。仕事の苦悩やジレンマ、目標を達成した喜び、同僚たちとの友情など、会社員の誰しもが持つ経験をベースに、思わず「それな!」と、共感するシーンが多数登場するのでした。
ファイティン!と叫びたい
新人時代の苦労は人それぞれですが、グレの場合は何がわからないのかわからないという様子。飛び交う専門用語が外国語に聞こえ、立っているだけで邪魔だと罵られ、これといった事務経験も無いまま入社した彼の、会社での困惑ぶりは相当なもの。電話応対は未知との遭遇、受話器を取れば、相手が英語だのロシア語だので一方的に話し始めるんですから。先輩に助けを求めても「知らないわよ」と一蹴され、わけもわからぬまま、ドタバタと焦りまくって1日が終わるグレに、「ファイティン!」と叫びたい韓ドラオババここにあり。
愛を感じるオ課長とグレの関係性
オ課長のグレに対する言葉の全てに、愛がみっちみち込められています。何もわからず大手商社に入社したグレを、なんとか一人前に働けるようにしてやろうという思いやりをひしひしと感じます。グレを怒鳴りつけるシーンが何度も出てきますが、この方だけは、他のパワハラ上司と違い、「うんうん、そうかそうか!」と言ってあげたいくらい。職場における師弟愛とでも言いましょうか、私の若かりし時代の職場にも、こんな上司がいてくれたなら、もう少しマシな社会人になれたのではないかと、つい思いにふけってしまうのですよ。
想定外のグレの活躍と高い評価
学歴も低く、劣等生と思われたグレが、優秀な同期たちよりも高い評価を得て、上層部の面々から注目される存在となります。このドラマは、決してやられっぱなしではなく、時には嫌なやつらをぎゃふんと言わせるシーンが適度にあるのが、見ていてスカっとした気持ちにさせられ爽快です。プレゼンでのパートナーとなったソンニュルとは、まったく考えが合わず、このままでは良い評価を得られないと思われたグレでしたが、プレゼン当日は二人の考えがうまく噛み合い、お互いの信頼感が深まっていく様子が感動的です。
だんだん変化していくグレの成長
わけありで、本来はお蔵入りとなるはずの中古車輸出の案件を、グレが「やるべきだ」と提案し、営業三課は企画を進めようとしますが、まわりの反発も大きく、苦労を強いられます。なんとかプレゼンを行えることになるのですが、さえないインターンだったグレが、会議では自分の意見を主張し、結果、それが戦略として功を奏すなど、少しずつ力を発揮していく成長過程が見どころです。プレゼンには専務や役員たちの他、普段は出席しない社長までもが興味を示して顔を出し、三課の面々の緊張度の高まりにも、これからどうなるかとわくわくさせられました。また、グレの考えた意表を突くプレゼンの進め方が、出席者の心を大きく動かし、一躍注目の的となったグレが、戸惑う様子も面白いです。
ドラマの象徴となる屋上シーン
何度となく登場する屋上は、仕事の疲れや悩みを忘れさせ、癒してくれる特別な場所。そこに彼らが夕日をバックに立っているだけで、見ているこちらは感動爆上がりです。更にお約束の挿入歌が流れると、本当に涙出そうになるくらい。何度も言っていてくどいかもしれませんが、本当に本当に、この清々しさはなんですか?インターンから契約社員となったグレの頑張りと、それでも正社員にはなれなかったグレの切なさと、そしてそして、同期や三課の同僚たちとの人間愛が、私の心の中で今日も暴れまくっております。
今このタイミングでお祝いを
サラリーマンのバイブルと呼ばれたというミセンは、 放送された年には百想芸術大賞や新人賞など、栄誉ある賞を受賞しました。当時の授賞式動画を探し、このタイミングで「誠におめでとうございます」という気持ちをぶつけております。私としてはついこの間見たドラマなので、この受賞式の模様までもが、最近行われたかのように感じられるのでした。
ミセンは素晴らしいドラマです
私のように、韓国ドラマをずっと見続けている人なら、まだ「ミセン」を見ていなくても、大変話題となったドラマのタイトルとして、自然と良く目にしているはず。「ミセン」という言葉について考えることの無かった私も、ドラマを見ることで、このタイトルにこそ、深い意味があるのだということを知りました。いやもう、降参です。本当に素晴らしいドラマでした。シーズン2があっても良かったのではと思うくらい、グレのその後が気になる私なのです。